扉を閉めたゴドウェン隊長はふぅ、と一息つくと俺達に座るように促したあと自身も椅子に座った。
「突然悪かったな。あんなところであの時の話をするわけにもいかないので場所を変えさせてもらった。随分早いが姫様に会いに来たのか?」
「いや、あの後カルヘルドの南で戦闘があったって聞いて、少し心配になりまして。無事なのかどうかだけでも確認できればと思ってきたんです。あとは王都の観光も兼ねてました」 「なるほどな。姫様はもちろん無事だ。だが、そんな話姫様が聞いたら怒りだすぞ。姫様はお前達のことを随分気に入ったみたいでな。もし訪ねてきたら必ず連絡するようにと指示されていた」 「そ、そうなんですか。いえ、もちろん会いたくなかったわけではなく俺なんかが面会を求めても許可されるはずがないと思ったわけでして」 「まぁ、確かに公式の場での面会は難しいだろうな。だが、非公式であれば方法はある。今確認をとっているから少し待ってくれ」と、そこでちょうど扉がノックされ、一人の兵士が入ってくるとメモの様なものをゴドウェンに渡す。
「ふむ。明日の昼過ぎであれば時間を作れるそうだ。悪いが明日もう一度こちらまで来て貰えるか?入り口の兵士に俺の名を伝えて貰えば迎えに行く」
「分かりました。色々とお手数お掛けしてしまいすみません」 「なに、これも仕事の内だ。気にしないでくれ」そのあとまた兵士に呼ばれたゴドウェン隊長と別れて階段を下りていく。
「なんか、意外なほどあっさり面会の段取りができてしまったな」
「あの方が近衛隊長だからでしょうね。普通ならこんなに簡単に話は通らないと思いますよ」 「そうだよな。城の入り口で会えたのは幸運だった」俺が頷いていると彼女がふと気づいたように聞いてきた。
「そういえば、私は前回の件には関わっていないんですけど、明日同行しても良いんでしょうか?」
「あの場でゴドウェン隊長に特に何も言われなかったし大丈夫じゃないか?もし明日何か言われた時は悪いけど街の方でも見て回っててくれ」 「そうですね。分かりました」その後は広場の方まで戻り、珍しそうなお店
王宮に入りとある一室に通されるとそこにはエルミアが待っていた。「アキツグ!ロシェ!来てくれて嬉しいわ」こちらに気づいたエルミアは駆け寄ってくるとロシェに抱き着いた。『ちょっと、急に抱き着かれたらびっくりするでしょう。まったくもう』ロシェはやれやれといった感じだが、嬉しそうにされるがままになっている。 ゴドウェンさんは気を利かせたのか部屋の外で待機してくれるようだった。「あら?そちらの方は?」そこで漸くカサネさんの存在に気づいたようでミアが尋ねてきた。「初めまして。冒険者のカサネと申します。お会いできて光栄です」そう言うとカサネさんは丁寧にお辞儀した。「初めまして。私はエルミアよ。アキツグさん達の仲間なのよね?今はプライベートだしそんなに畏まった挨拶は不要よ。気楽にして頂戴」 「え、えぇと・・・はい。分かりました」カサネさんはしばらく視線を彷徨わせていたが、俺達の様子を見て観念したのかそう返した。「なんにしても、ミアが無事に戻れていたみたいで安心したよ。南でも戦闘があったみたいだから心配していたんだ」 「そうなの。あの後カルヘルドを出た後も襲撃者達に襲われてね。流石に真正面からぶつかっては勝てないと悟ったのか途中で引いたみたいだったけれど」そう言いつつもまだ何か気にかかることがあるのかミアの表情は晴れない様子だった。「何か気になることがあるのか?」 「う~ん。なんだか王宮に戻ってからも偶に誰かの視線を感じる気がするのよね。王城内に怪しい人物が居れば分かるはずなんだけど」何だか不穏な話になってきた。もしかしてまだ例の襲撃者の連中が諦めずに何かを企んでいるのだろうか?「そういえば、例の襲撃者達については何か情報掴めたのか?」 「あぁ、あの連中ね。こちらでも何名か捕まえたんだけど、下っ端には詳しいことは何も知らされていないみたいでね。結局何も分からなかったわ」 「そうなのか。だとするとまだミアが狙われている可能性もあるのかもしれないな」 「そうね。こ
「えっ?それじゃ、カサネさんはロシェの言葉分かるようになったの!?」 「はい。アキツグさんのスキルのおかげで」以前にミアがロシェと話したいと言っていたので、知識の交換の部分については話すことにした。「え~いいなぁ。知識、知識かぁ。流石に国の内部に関わることは渡すわけにはいかないし。私個人で出せるもの・・・う~ん・・・」彼女は必死に考え込んでいるが、なかなか良い案が出ないらしい。王女といえば専門的な知識は王族に関わるものが多くなるのだろう。「まぁ、そこまで無理して今考えなくても・・・」 「ダメ、せっかくのチャンスだもん。私もロシェと話したい!」今すぐじゃなくてもと思い提案した俺の意見も言い終わる前に却下された。 それほど彼女にとっては大事なことらしい。「そうだ!私が今まで書き留めたこの王都と王国周辺の情報と交換ならどうかしら。大陸地図もあるわよ。記載があるのは調査済みのところまでだけど」そう言いながら彼女は部屋の隅にあった棚の引き出しから紙束と地図を取り出して持ってきた。「情報って大丈夫なのか?」 「あぁ、情報って言っても機密的なものではなくて。私個人が趣味で調べたものよ。王都のお勧めポイントとか周辺の町や村に行ったときに知ったこととかね」そう言って彼女が見せてくれたのは確かに一般の人でも知り得そうなものだった。 昨日カサネが絶賛した洋菓子店のことも記載してある。 そして大陸地図、これもかなり遠方の情報まで記載されていた。 今まで行き当たりばったりで行動していた俺からすれば是非とも欲しいものだった。「「相手が王都ハイロエント及び周辺地域の情報の交換に同意しました。ハイドキャットの言語と交換可能です」」カサネさんの時と同様にそんな声が聞こえてきた。「交換できるみたいだ。俺としても有難いし交渉成立だな」 「本当?やった!ロシェ、私もお話しできるようになったよ!」話を聞いていたロシェはミアの方に近寄って顔を摺り寄せた。『良かったわね。私もミアと話せるよう
慎重に扉を開けるとそこには地下への梯子が掛かっていた。梯子の下の方も真っ暗なので、降りた先にまだ道があるのだろう。 梯子を下りて、少し先に進むと先の方に小さな明かりが見えた。『気を付けて何人かいるわ』ロシェの言葉により注意して進む。足音はしないが何かを蹴飛ばしてしまったら、そちらの音まで消すことはできないからだ。 そうして近づくと段々と男の怒鳴り声が聞こえてきた。「何やっているんだ。慎重に行動しろと言ったはずだろう!襲い掛かった挙句、捕まえることもできずに逃げ帰ってきたとは。お前は計画を台無しにする気か!」 「い、いやだから慎重に行動したんですよ。商人の男一人だけになったところで角から不意打ちするところまでは上手くいったんです。なのに、男が何かしたようにも見えなかったのに突然手に痛みが走ってナイフを落とされたんです」逃げてきた男は必死に弁明していた。「そんなわけがないだろう。今まで見た限り奴はただの商人だ。そんなことができるようには・・・いや、待て。そうかハイドキャットか」 「ハイドキャット?」 「奴らには従魔登録したハイドキャットが居るらしい。まったく姿を見せないから偽情報か別行動でもしているのかと思ったが、ずっと姿を消したまま同行していたのか」上司らしき男の言葉に周りの男達も含め動揺の声を上げる。「な、何でそれを教えてくれなかったんですか?それさえ知っていれば俺だって安易に襲い掛かったりしなかったですよ!」 「黙れ!ならお前はハイドキャットの生態を詳細に知っているのか!長時間隠密行動ができるのならいつ居て、いつ居ないかの判断などできんだろう。それに言い訳したところでお前の失敗した事実は覆らん」 「そ、そんな・・・」男はそれ以上何も言えず沈黙した。「まぁ、済んだことは仕方ない。あくまで奴らを人質に取るのは囮用の計画だ。主目的に支障はない。二日後、内通者の手引きで王城内部に侵入する。そのまま深夜まで待機し、モルドナム国王を暗殺して内通者と共に脱出する。その日、兵の食事には内通者が睡眠薬を混ぜる予定になっている。起きている者もいるだろうが
朝になると俺達は早めに宿を出て王城まで向かった。 少しでもミアが会うための時間を作りやすくするためだ。王城の入り口に着くと兵士さんにゴドウェンへの繋ぎを頼んだ。 しばらくすると奥からゴドウェンがやってきた。「なんだ?今日は面会の約束は聞いていないが」 「それなんですが、実はこのハイドキャットをエルミア様に献上しようと思いまして。昨日話している時に大変気に入られた様でしたので」俺の言葉を聞くとゴドウェンさんはロシェの方を見た。今日は最初からロシェに姿を見せて貰っていた。「ふむ。そいつをか。まぁ確かに大人しそうだが、お前は良いのか?」 「もちろんです。エルミア様に気に入って頂ければなによりですので。それで急な話で申し訳ないのですが、本日エルミア様にお時間を取って頂けないかと」 「今日か?それはまた難しいことを言うな」 「申し訳ございません。私達にも予定がありまして。無理にとは言いませんのでエルミア様に聞くだけでも聞いていただけないでしょうか?」無理がある話なのは理解している。だが何とか通さないといけないのだ。 俺はなるべく不自然にならない様にお伺いを立てた。「まぁ、聞くだけなら聞いてみよう。そこの部屋でしばらく待っていてくれ」そう言ってゴドウェンさんは王宮の方へ向かっていった。 俺達は言われた通り部屋に入って返事を待った。(とりあえず、第一段階はクリアか。あとはミアがこちらの意図に気づいてあってくれればいいが)しばらくしてゴドウェンさんが戻ってきた。なんだか少し腑に落ちないという様子だったが、「姫様がお会いになるそうだ。今からで構わないという話だから案内する」と返事が返ってきた。 良かった。これで何とかなりそうだ。 その後、昨日と同じように王宮のミアの部屋まで案内された。「エルミア様、彼らを連れてきました」 「ありがとう。あなたは下がっていて」 「承知しました」というとゴドウェンさんは昨日と同じように部屋の前で待機した
宿に戻った俺達は、その日は念のため同じ部屋で交代で眠ることにした。 今更俺達を襲うことはないと思ったが、万が一があってミアの足を引っ張ることだけは避けたかったからだ。 結果としては予想通り、何事もなく朝を迎えた。「さて、今日が本番だが俺達はいつも通りに振舞うしかないか。もどかしいな」 「そうですね。自分達だけが何もできないのはもどかしいです。でも、今日はそれが私達にできることですから頑張って自然体を装いましょう!」カサネさんが敢えて楽しげな声でそう言った。 そうだよな。俺達が変な態度を取って、奴らに気づかれでもしたら最悪だ。「あぁ。折角だしミアが教えてくれたこの街のおすすめポイントでも回るか!」 「えぇ、そうしましょう」俺もその声に合わせるようにしてそう言った。 悔しいが俺達にできることはないのだ。割り切ることも大事だろう。-------------------------------- Side.エルミア(ここからはエルミア視点のお話になります)アキツグたちと別れた後、私はまずゴドウェンに事情を説明し近衛兵達に夕食は控えめにして、眠たげな様子を見せるように指示を出した。 睡眠薬の混入を止めれば簡単だが相手に気取られては意味がないのだ。 そして私自身はさも手に入れた希少なハイドキャットを見せびらかしたい風を装いながら、手当たり次第に皆のところを回っていった。 これも特定の人物のところだけを当たって怪しまれないようにするため。その中で信頼の置けるものにだけ作戦を伝えた。 夜になったら私は何も知らないふりをして寝たふりをするしかない。最後を他の人達に任せるしかないのはもどかしいが、私が行っても足手まといにしかならない。 だから、私にできるのはいざという時に人質にならないよう自分の身を守ることだ。 深夜になると、王宮内が俄かに騒がしくなる。計画が実行されたのだ。(お父様、ご無事かしら)敵の規模、そして内通者が誰か分からなかったのが不安材料ではあるが、計画自体は割れているのだ。防ぐことはそ
朝になって俺達が待ちきれずに王城へ向かおうとすると、そこにちょうど兵士の一人が伝言を伝えに来た。 どうやら国王の暗殺計画は失敗に終わり、ミア達も無事だったようだ。 それは良いのだが、何故か俺達が功労者として国王との謁見を許可されたという話まで一緒について来ていた。「えぇ、、どうする?これ」 「どうするも何も、私達に断る権利なんてないと思いますよ」困惑する俺に対して、カサネさんも同じように動揺しながらもどうしようもない事実を告げる。「そうだよな。国王様からの謁見の招待を断るなんて、よほどの理由がないと無理だよな・・・」ミアとは出会った状況が特殊だったから、その後もそれほど気負わず付き合えているが、いきなり国王と知ってる相手となると恐れ多さが出てきてしまう。「私も気持ちは分かりますが、あのミアさんのお父様なのですし少なくとも悪い方ではないと思いますよ」 「まぁ・・・そうかもな。それに功労者として呼ばれてるわけだし、変なことにはならないはずだよな。緊張はするけど」 「えぇ。礼儀に気を付けて言われたことに応えさえすれば大丈夫だと思います」カサネさんにそう言われて俺は気づく。「俺、この国の礼儀作法とか全然分からないぞ!?」 「そう言われると私も不安かも。商業ギルドで聞いてみましょうか」 「何で商業ギルドなんだ?」 「何となく冒険者ギルドよりは、礼儀が大事な気がしません?あと情報を聞くならギルドが一番無難かなと思ったんです」確かに。一番良いのは王城の人だろうが、昨日の騒動が収まっていない今言っても邪魔になるだけだろう。そういう意味ではギルドは正しい判断だと思う。「そうだな。商業ギルドで聞いてみるか」やるべきことが決まったところで早速商業ギルドに向かった。 流石に王都にあるギルドだけあって謁見の際の作法についても知っていた。 二人で少量の謝礼を払い簡単な講義を受けた。 幸いなことにそれほど難しい内容ではなかったので、これなら大丈夫だろう。 その後も衣装など、失礼にならない程度
目が覚めると一面が真っ白な世界だった。 「なんだここは?俺は何でこんなところに?」 明らかに普通の場所ではない。スモークなどを焚いているのだとしても広すぎる。 目覚める前のことを思い出そうとするが記憶が朧気で思い出せない。 自分の名前、沢渡観世(さわたりあきつぐ)、25歳、職業:商人。 大丈夫。自分のことは覚えている昔の記憶も思い出せる。 分からないのは直近の記憶だけのようだ。「そこの人間」そんな風に自問自答しているとどこからか声が聞こえた。「誰だ?」 「こっちだ」声を頼りに後ろに振り返った途端、そのまま尻もちをついた。 そこには巨大な観音菩薩の仏像が浮いていたのだ。「か、観音菩薩?なんでこんなところに?というかさっきまでなかったよな?どうなってるんだいったい・・・」 「お前を呼んだのは私だ」 「し、しゃべった!?」再度、驚きの声が出る。確かに声は目の前の像から聞こえている。 誰かが揶揄っているのかと周囲を回ってみたが誰も居ない。「納得したか。では、本題に入ろう」 「本題?」 「そうだ。いきなりでは信じられないだろうがお前は死んだ」 「は?俺が死んだって、何の冗談だ?」 「冗談ではない。お前は旅の途中、暴走してきた車に撥ねられて即死だった」車に?そう言われて記憶に引っかかるものがあった。突如坂を乗り越えてこちらに迫ってくる車の映像がフラッシュバックする。「ぐっ!今のは、、まさかあれが死ぬ間際の?」 「思い出したか。では、お前には二つの選択肢がある」 「待て待て、自分が死んだってことすらまだ信じられないのに。突然選択肢とか言われても・・・」 「そうだろうな。好きなだけ悩んで構わない。選択肢は天国へ行くか異世界へ行くかだ」 「異世界?いや、天国はまだ分かる。死んだら行くって言われてるからな。異世界ってなんだ?」唐突に聞こえた不自然な単語に思わず疑問が声に出た。「お前は選ばれた。輪廻の均衡を維持するための例外として。とはいえ元の世界に返すわけには行かない。だから別の世界で生きよということだ」 「輪廻の均衡ってなんだ?」 「詳しくは話せぬが、世には極稀にまだ死ぬべきでない者が早死にすることがある。そのような者達を全て死後の世界へ送ってしまうと輪廻に歪みが生じてしまう。それを防ぐため選ばれた者に生を謳歌させ均衡
「う、うぅん」目が覚めるとそこは森の中だった。中とはいっても直ぐ側に街道のようなものが見える。森の端のほうなのだろう。 神のような存在との会話はまだ覚えている。恐らく意味も分からずこの世界に降り立ってまた混乱しないようになのだろう。まずは自身の状態を確認する。確かにこの世界の基本的な知識が分かる。 次に持ち物なども確認してみる。 服装はこの世界の旅人の標準的なもののようだ。 持ち物は何やら色々入った背負い鞄を持っている。 どうやら死んだときに持っていたのと同程度の品物があるようだ。 ありがたい。これならうまく売ることさえできれば一先ず生活に困ることはないだろう。あとは、能力か。魔法は残念ながら使えない様だ。 スキルはあるな。良かった、こんな世界で魔法もスキルもなかったら生きていく自信を無くすところだった。 早速スキルの内容を確認してみる。-------------------------------- スキル:わらしべ超者Lv1 自分の持ち物と相手の持ち物を交換してもらうことができる。交換レートはスキルレベルと相手の需要と好感度により変動する。 スキル効果により金銭での取引、交換はできない。--------------------------------・・・・・・は? 信じられない気持ちで見直すが何度見ても結果は変わらない。 金銭での取引はできない?なんだそれ、商人として終わってないか? いや、確かに田舎の村では農作物と薬や消耗品などを物々交換していたこともあるが、基本は金銭での取引だった。 この世界の常識と照らし合わせてみても基本は金銭取引だ。 それになんだ交換レートは好感度により変動するって! いやまぁ、嫌いな人からは買いたくないとか好きな人には奮発するとか分からなくもないけど、これどの程度変わってくるんだ? スキルの詳細を知ろうとしても情報は出てこない。とりあえずどこかの村や町で試してみるしかないか。 何だかいきなり商人としての道に影が差した気がして気落ちするが、まずは生活基盤を何とかしないとそれ以前の問題になってしまう。 手持ちの食糧も心もとないしまずは町か村を見つけないとな。 そう考えてまずは街道に出て周りを見渡してみる。 幸いなことに視界の端の方に村のようなものが見えた。 スキルはともかく
朝になって俺達が待ちきれずに王城へ向かおうとすると、そこにちょうど兵士の一人が伝言を伝えに来た。 どうやら国王の暗殺計画は失敗に終わり、ミア達も無事だったようだ。 それは良いのだが、何故か俺達が功労者として国王との謁見を許可されたという話まで一緒について来ていた。「えぇ、、どうする?これ」 「どうするも何も、私達に断る権利なんてないと思いますよ」困惑する俺に対して、カサネさんも同じように動揺しながらもどうしようもない事実を告げる。「そうだよな。国王様からの謁見の招待を断るなんて、よほどの理由がないと無理だよな・・・」ミアとは出会った状況が特殊だったから、その後もそれほど気負わず付き合えているが、いきなり国王と知ってる相手となると恐れ多さが出てきてしまう。「私も気持ちは分かりますが、あのミアさんのお父様なのですし少なくとも悪い方ではないと思いますよ」 「まぁ・・・そうかもな。それに功労者として呼ばれてるわけだし、変なことにはならないはずだよな。緊張はするけど」 「えぇ。礼儀に気を付けて言われたことに応えさえすれば大丈夫だと思います」カサネさんにそう言われて俺は気づく。「俺、この国の礼儀作法とか全然分からないぞ!?」 「そう言われると私も不安かも。商業ギルドで聞いてみましょうか」 「何で商業ギルドなんだ?」 「何となく冒険者ギルドよりは、礼儀が大事な気がしません?あと情報を聞くならギルドが一番無難かなと思ったんです」確かに。一番良いのは王城の人だろうが、昨日の騒動が収まっていない今言っても邪魔になるだけだろう。そういう意味ではギルドは正しい判断だと思う。「そうだな。商業ギルドで聞いてみるか」やるべきことが決まったところで早速商業ギルドに向かった。 流石に王都にあるギルドだけあって謁見の際の作法についても知っていた。 二人で少量の謝礼を払い簡単な講義を受けた。 幸いなことにそれほど難しい内容ではなかったので、これなら大丈夫だろう。 その後も衣装など、失礼にならない程度
宿に戻った俺達は、その日は念のため同じ部屋で交代で眠ることにした。 今更俺達を襲うことはないと思ったが、万が一があってミアの足を引っ張ることだけは避けたかったからだ。 結果としては予想通り、何事もなく朝を迎えた。「さて、今日が本番だが俺達はいつも通りに振舞うしかないか。もどかしいな」 「そうですね。自分達だけが何もできないのはもどかしいです。でも、今日はそれが私達にできることですから頑張って自然体を装いましょう!」カサネさんが敢えて楽しげな声でそう言った。 そうだよな。俺達が変な態度を取って、奴らに気づかれでもしたら最悪だ。「あぁ。折角だしミアが教えてくれたこの街のおすすめポイントでも回るか!」 「えぇ、そうしましょう」俺もその声に合わせるようにしてそう言った。 悔しいが俺達にできることはないのだ。割り切ることも大事だろう。-------------------------------- Side.エルミア(ここからはエルミア視点のお話になります)アキツグたちと別れた後、私はまずゴドウェンに事情を説明し近衛兵達に夕食は控えめにして、眠たげな様子を見せるように指示を出した。 睡眠薬の混入を止めれば簡単だが相手に気取られては意味がないのだ。 そして私自身はさも手に入れた希少なハイドキャットを見せびらかしたい風を装いながら、手当たり次第に皆のところを回っていった。 これも特定の人物のところだけを当たって怪しまれないようにするため。その中で信頼の置けるものにだけ作戦を伝えた。 夜になったら私は何も知らないふりをして寝たふりをするしかない。最後を他の人達に任せるしかないのはもどかしいが、私が行っても足手まといにしかならない。 だから、私にできるのはいざという時に人質にならないよう自分の身を守ることだ。 深夜になると、王宮内が俄かに騒がしくなる。計画が実行されたのだ。(お父様、ご無事かしら)敵の規模、そして内通者が誰か分からなかったのが不安材料ではあるが、計画自体は割れているのだ。防ぐことはそ
朝になると俺達は早めに宿を出て王城まで向かった。 少しでもミアが会うための時間を作りやすくするためだ。王城の入り口に着くと兵士さんにゴドウェンへの繋ぎを頼んだ。 しばらくすると奥からゴドウェンがやってきた。「なんだ?今日は面会の約束は聞いていないが」 「それなんですが、実はこのハイドキャットをエルミア様に献上しようと思いまして。昨日話している時に大変気に入られた様でしたので」俺の言葉を聞くとゴドウェンさんはロシェの方を見た。今日は最初からロシェに姿を見せて貰っていた。「ふむ。そいつをか。まぁ確かに大人しそうだが、お前は良いのか?」 「もちろんです。エルミア様に気に入って頂ければなによりですので。それで急な話で申し訳ないのですが、本日エルミア様にお時間を取って頂けないかと」 「今日か?それはまた難しいことを言うな」 「申し訳ございません。私達にも予定がありまして。無理にとは言いませんのでエルミア様に聞くだけでも聞いていただけないでしょうか?」無理がある話なのは理解している。だが何とか通さないといけないのだ。 俺はなるべく不自然にならない様にお伺いを立てた。「まぁ、聞くだけなら聞いてみよう。そこの部屋でしばらく待っていてくれ」そう言ってゴドウェンさんは王宮の方へ向かっていった。 俺達は言われた通り部屋に入って返事を待った。(とりあえず、第一段階はクリアか。あとはミアがこちらの意図に気づいてあってくれればいいが)しばらくしてゴドウェンさんが戻ってきた。なんだか少し腑に落ちないという様子だったが、「姫様がお会いになるそうだ。今からで構わないという話だから案内する」と返事が返ってきた。 良かった。これで何とかなりそうだ。 その後、昨日と同じように王宮のミアの部屋まで案内された。「エルミア様、彼らを連れてきました」 「ありがとう。あなたは下がっていて」 「承知しました」というとゴドウェンさんは昨日と同じように部屋の前で待機した
慎重に扉を開けるとそこには地下への梯子が掛かっていた。梯子の下の方も真っ暗なので、降りた先にまだ道があるのだろう。 梯子を下りて、少し先に進むと先の方に小さな明かりが見えた。『気を付けて何人かいるわ』ロシェの言葉により注意して進む。足音はしないが何かを蹴飛ばしてしまったら、そちらの音まで消すことはできないからだ。 そうして近づくと段々と男の怒鳴り声が聞こえてきた。「何やっているんだ。慎重に行動しろと言ったはずだろう!襲い掛かった挙句、捕まえることもできずに逃げ帰ってきたとは。お前は計画を台無しにする気か!」 「い、いやだから慎重に行動したんですよ。商人の男一人だけになったところで角から不意打ちするところまでは上手くいったんです。なのに、男が何かしたようにも見えなかったのに突然手に痛みが走ってナイフを落とされたんです」逃げてきた男は必死に弁明していた。「そんなわけがないだろう。今まで見た限り奴はただの商人だ。そんなことができるようには・・・いや、待て。そうかハイドキャットか」 「ハイドキャット?」 「奴らには従魔登録したハイドキャットが居るらしい。まったく姿を見せないから偽情報か別行動でもしているのかと思ったが、ずっと姿を消したまま同行していたのか」上司らしき男の言葉に周りの男達も含め動揺の声を上げる。「な、何でそれを教えてくれなかったんですか?それさえ知っていれば俺だって安易に襲い掛かったりしなかったですよ!」 「黙れ!ならお前はハイドキャットの生態を詳細に知っているのか!長時間隠密行動ができるのならいつ居て、いつ居ないかの判断などできんだろう。それに言い訳したところでお前の失敗した事実は覆らん」 「そ、そんな・・・」男はそれ以上何も言えず沈黙した。「まぁ、済んだことは仕方ない。あくまで奴らを人質に取るのは囮用の計画だ。主目的に支障はない。二日後、内通者の手引きで王城内部に侵入する。そのまま深夜まで待機し、モルドナム国王を暗殺して内通者と共に脱出する。その日、兵の食事には内通者が睡眠薬を混ぜる予定になっている。起きている者もいるだろうが
「えっ?それじゃ、カサネさんはロシェの言葉分かるようになったの!?」 「はい。アキツグさんのスキルのおかげで」以前にミアがロシェと話したいと言っていたので、知識の交換の部分については話すことにした。「え~いいなぁ。知識、知識かぁ。流石に国の内部に関わることは渡すわけにはいかないし。私個人で出せるもの・・・う~ん・・・」彼女は必死に考え込んでいるが、なかなか良い案が出ないらしい。王女といえば専門的な知識は王族に関わるものが多くなるのだろう。「まぁ、そこまで無理して今考えなくても・・・」 「ダメ、せっかくのチャンスだもん。私もロシェと話したい!」今すぐじゃなくてもと思い提案した俺の意見も言い終わる前に却下された。 それほど彼女にとっては大事なことらしい。「そうだ!私が今まで書き留めたこの王都と王国周辺の情報と交換ならどうかしら。大陸地図もあるわよ。記載があるのは調査済みのところまでだけど」そう言いながら彼女は部屋の隅にあった棚の引き出しから紙束と地図を取り出して持ってきた。「情報って大丈夫なのか?」 「あぁ、情報って言っても機密的なものではなくて。私個人が趣味で調べたものよ。王都のお勧めポイントとか周辺の町や村に行ったときに知ったこととかね」そう言って彼女が見せてくれたのは確かに一般の人でも知り得そうなものだった。 昨日カサネが絶賛した洋菓子店のことも記載してある。 そして大陸地図、これもかなり遠方の情報まで記載されていた。 今まで行き当たりばったりで行動していた俺からすれば是非とも欲しいものだった。「「相手が王都ハイロエント及び周辺地域の情報の交換に同意しました。ハイドキャットの言語と交換可能です」」カサネさんの時と同様にそんな声が聞こえてきた。「交換できるみたいだ。俺としても有難いし交渉成立だな」 「本当?やった!ロシェ、私もお話しできるようになったよ!」話を聞いていたロシェはミアの方に近寄って顔を摺り寄せた。『良かったわね。私もミアと話せるよう
王宮に入りとある一室に通されるとそこにはエルミアが待っていた。「アキツグ!ロシェ!来てくれて嬉しいわ」こちらに気づいたエルミアは駆け寄ってくるとロシェに抱き着いた。『ちょっと、急に抱き着かれたらびっくりするでしょう。まったくもう』ロシェはやれやれといった感じだが、嬉しそうにされるがままになっている。 ゴドウェンさんは気を利かせたのか部屋の外で待機してくれるようだった。「あら?そちらの方は?」そこで漸くカサネさんの存在に気づいたようでミアが尋ねてきた。「初めまして。冒険者のカサネと申します。お会いできて光栄です」そう言うとカサネさんは丁寧にお辞儀した。「初めまして。私はエルミアよ。アキツグさん達の仲間なのよね?今はプライベートだしそんなに畏まった挨拶は不要よ。気楽にして頂戴」 「え、えぇと・・・はい。分かりました」カサネさんはしばらく視線を彷徨わせていたが、俺達の様子を見て観念したのかそう返した。「なんにしても、ミアが無事に戻れていたみたいで安心したよ。南でも戦闘があったみたいだから心配していたんだ」 「そうなの。あの後カルヘルドを出た後も襲撃者達に襲われてね。流石に真正面からぶつかっては勝てないと悟ったのか途中で引いたみたいだったけれど」そう言いつつもまだ何か気にかかることがあるのかミアの表情は晴れない様子だった。「何か気になることがあるのか?」 「う~ん。なんだか王宮に戻ってからも偶に誰かの視線を感じる気がするのよね。王城内に怪しい人物が居れば分かるはずなんだけど」何だか不穏な話になってきた。もしかしてまだ例の襲撃者の連中が諦めずに何かを企んでいるのだろうか?「そういえば、例の襲撃者達については何か情報掴めたのか?」 「あぁ、あの連中ね。こちらでも何名か捕まえたんだけど、下っ端には詳しいことは何も知らされていないみたいでね。結局何も分からなかったわ」 「そうなのか。だとするとまだミアが狙われている可能性もあるのかもしれないな」 「そうね。こ
扉を閉めたゴドウェン隊長はふぅ、と一息つくと俺達に座るように促したあと自身も椅子に座った。「突然悪かったな。あんなところであの時の話をするわけにもいかないので場所を変えさせてもらった。随分早いが姫様に会いに来たのか?」 「いや、あの後カルヘルドの南で戦闘があったって聞いて、少し心配になりまして。無事なのかどうかだけでも確認できればと思ってきたんです。あとは王都の観光も兼ねてました」 「なるほどな。姫様はもちろん無事だ。だが、そんな話姫様が聞いたら怒りだすぞ。姫様はお前達のことを随分気に入ったみたいでな。もし訪ねてきたら必ず連絡するようにと指示されていた」 「そ、そうなんですか。いえ、もちろん会いたくなかったわけではなく俺なんかが面会を求めても許可されるはずがないと思ったわけでして」 「まぁ、確かに公式の場での面会は難しいだろうな。だが、非公式であれば方法はある。今確認をとっているから少し待ってくれ」と、そこでちょうど扉がノックされ、一人の兵士が入ってくるとメモの様なものをゴドウェンに渡す。「ふむ。明日の昼過ぎであれば時間を作れるそうだ。悪いが明日もう一度こちらまで来て貰えるか?入り口の兵士に俺の名を伝えて貰えば迎えに行く」 「分かりました。色々とお手数お掛けしてしまいすみません」 「なに、これも仕事の内だ。気にしないでくれ」そのあとまた兵士に呼ばれたゴドウェン隊長と別れて階段を下りていく。「なんか、意外なほどあっさり面会の段取りができてしまったな」 「あの方が近衛隊長だからでしょうね。普通ならこんなに簡単に話は通らないと思いますよ」 「そうだよな。城の入り口で会えたのは幸運だった」俺が頷いていると彼女がふと気づいたように聞いてきた。「そういえば、私は前回の件には関わっていないんですけど、明日同行しても良いんでしょうか?」 「あの場でゴドウェン隊長に特に何も言われなかったし大丈夫じゃないか?もし明日何か言われた時は悪いけど街の方でも見て回っててくれ」 「そうですね。分かりました」その後は広場の方まで戻り、珍しそうなお店
カサネさんと合流してから近場の飲食店に入り、お互いの情報を交換する。「アキツグさんが良い宿を抑えてくれて助かりました。こっちは素材が高く売れたのは良かったんですけど、そのせいか妙に高そうな宿を紹介されてしまって」 「これだけの街だし裏で繋がりとか小競り合いとか色々あるんだろうな」 「そうですね。ライバル店も多そうですし。それにしてもえっと、ミアさん?は戻れていたようで良かったですね。会いに行かれるんですか?」旅の途中でカサネさんにはエルミアとの出会いも話していた。 当然ながら話した時は、信じられないといった顔で驚かれたが。 確かにミアからは遊びに来てと言われていたが、一般人が気軽に会えるような相手ではないだろう。「いや、流石にな。行ったところで門前払いされるだけだと思うし。無事だったのが分かれば十分だ」 『人間社会っていうのは面倒ね。友達に会いに行くことすら憚れるなんて』 「そう言われると辛いが、こればっかりはなぁ。まぁ、今なら隠れて会いに行けるかもだけど・・・いや、姿を隠しても王宮には感知する魔法くらい掛かってそうだな」 「怖いこと考えますね。もしそれで捕まったらどんな刑に処されるか。。」 「想像したくもないな。やめておこう。まぁ、でもせっかく王都まで来たんだ。近くまで見に行くくらいは良いだろう」 「ギルド証などで身分を証明できれば王城の入り口付近までは近づくことが許可されているみたいですよ」 「それじゃ、宿で部屋を取ったら行ってみるか」王城は長い石階段を上った先にあった。階段には他にも城を一目見に来たと思われる人達の往来で賑わっている。 俺達も同じように城の入り口まで来ると、真新しそうなしっかりした城門の奥には広場の様なものが見え兵士たちの訓練風景を見ることができた。王宮はさらに奥の方にあるようである。「これは、城の中だけでもかなり広そうだな」 「ハイロエントはこちらの大陸でもかなりの勢力を持つ王国みたいですから。それだけ防衛にも力を入れているのでしょう」そんなことを話していると、後ろから聞いたことのある声が掛けられた。
スキルの検証も終えて、その後はお互いのこれまでの話などをしながら旅を続けていた。「アキツグさんはまだこの世界に来て1か月程度なんですか。それでもうこんな風に馬車で旅をしているなんてすごいです。私なんて最初の二か月くらいは村でこの世界のことを知ったり、生活に慣れるのに精一杯でしたよ」 「元々旅や野宿には慣れていたからな。俺の場合は生活環境を整えるためにも取引するしかなかったし」 「村の人に助けて貰えた私は運が良かったです。スキルのことを学ぶ時間もありましたし」 「そういえば、カサネさんのスキルってどんなのなんだ?魔法とは別なのか?もちろん話せないなら聞かないけど」 「アキツグさんのも教えて貰いましたし、話しますけど他の人には内緒ですよ?私のスキルは魔法の才能強化です。魔法の成長速度とか消費魔力の軽減とか魔法に関する能力を強化してくれます。複数の魔法を扱えるのもこのスキルのおかげですね」カサネさんは火、水、風、地の四属性の魔法を扱えるらしい。普通の魔法使いは相性の良い一、二属性程度が普通だとか。 カサネさんが二年くらいでBランクまで上り詰めたのも納得の理由だった。もちろん才能に驕らずに技術を磨き続けた彼女の努力があってことだが。「新しい魔法を覚えることもあるので、もしかしたら交換した魔法をまた覚えられる可能性はあるのかもしれませんが、一度失った魔法を覚えられるのか確証が持てなくて。。すみません」 「いやいや。俺もスキルのこと分かってない部分あるし、慎重になるのは当然だよ」カサネさんは申し訳なさそうに謝っていたが、この世界に来て魔法が頼みの綱だった彼女にとってその魔法を手放すのを躊躇うのは当然の反応だろう。 そんな話をしながら数日後には、王都ハイロエントに到着した。 ハイロエントは遠目から見てもかなり大きな都市だった。周囲を城壁がぐるりと取り囲み、街の奥の一段高くなった所に城が築かれている。城の中央には大きめの庭と王宮が作られているらしい。 検問を通り城下街に入ると、今までよりさらに賑やかな街並みが目に入ってきた。「これはすごい人通りですね。流石王都です。エストリネア大陸の方でもこ